父親の趣味がカメラと写真だった。
子供の頃、実家の棚に一眼レフカメラが何台も並べられていた。
そのころはカメラのメーカーなんて知らなかったけど後から聞いたところミノルタのカメラが好きだったらしい。
休みの日で撮りに行けないときは居間で空シャッターを切っている姿を覚えている。
そして毎月数冊ずつカメラ雑誌を買っていた。
インターネットもなくエロ本も気軽に買えなかった当時、ボクにとっては女性のヌードを見るためのグラビアでしかなかったけど。
そんな父親を持ちながら、ボクは全くカメラに興味を示さなかった。
高校を卒業して、一人暮らしを始めてからはそんなに実家に帰ることもなく、両親の離婚やそれに伴う実家の引越しなどもあって、大人になってから父親に会った回数は多分両手の指に収まるほどだと思う。
数年前、妹が子供を見せてあげたいと言うので一緒に父親のところに連れて行ってあげた。ボクにとっては甥。当たり前。
いきなりそこそこ成長した子供を孫だと言って連れてこられてもどう接したらいいのか掴みきれないみたいでよそよそしく、甥の方も人見知りでお互い直接話をすることはなく、妹かボクを通して話す、といった感じだった。
しばらくは父親の家にいてみんなくつろいでいたけど、全員がなんとなく手持ち無沙汰になり外に散歩に行こうという事になった。
桜の咲く季節でボクは桜を撮ったりしながらぶらぶらしていたら、突然甥が父親に駆け寄って抱きついた。
冒頭の写真はその時のもの。
その後再び家に帰ると父親が、写真撮ってるんか、と嬉しそうに言って隣の部屋に行き、押し入れのダンボールをゴソゴソとあさっている。
戻ってきた父親の手には一台のコンパクトフィルムカメラが握られていた。
もう撮ることもないしあげるわ、と言って渡してくれた。
ミノルタのCapios 115s。
他のカメラはもう処分して手元にないらしい。カメラが好きだった父親が最後に残したカメラ。
ちょっとこれをメインのカメラにしてみようかな、と今書きながら思い始めた。