20230905_The Americans Grove Press


僕の好きな写真家、Robert Frank。
彼がカメラを携えて家族を連れて、アメリカ横断の旅をして作った写真集。

この写真集には特別な思いがあることは前にも書いた

まずフランスでデルピール(Delpire)という出版社から1958年に発売される。が、この出版は百科事典的シリーズの一巻として出されたものでロバート・フランクの本来やりたかった形とは程遠い。

そしてあるパーティでフランク自ら写真集をジャック・ケルアックに見せて序文書いてよ、と頼んで「この写真集になら何か書けるよ」と書いてもらった。

(ちなみに僕は20歳くらいのとき、どこへ行くにもケルアックの「路上」の文庫本をポケットに入れて持ち歩いていた。おかげですっかり角が丸くなって、雨に濡れたジーンズの青いシミができてしまった)



そして出版されたThe Americansは2600部発行され1100部ほどを売り上げただけで絶版になってしまったらしい。
そんなGrove Press版。

Looking Inを買ったときに「トリミングの違いも全部わかるしコンタクトシートも全部ある。The Americansはこれで上がりでいいな」なんて漠然と考えていたけど全然そんなことなかった。データとして知ったところでなんの感動もない。

グローブプレス版とデルピール版はグラビア印刷で他とは違い美しいらしい。それだってただの文字の情報。体験しないと意味がない…当然「実際見たい!」となってしまった。

それからコツコツと他のエディションも集めていたけど、これだけは高すぎて見て見ないふりをしてた。そもそも入手できる機会もほとんどない。

ところがある書店に在庫があることを発見してしまう。

何がどうとち狂って買うことになったのかはよく覚えてない。

ネットで在庫のチェックをするたびに、
「Grove Pressあるなぁ。買えんけど」
「Grove Pressあるなぁ。あとこれ買ったら全部のバージョン見れるようになるなぁ。買わんけど」
「Grove Pressあるなぁ。買えたら最高やなぁ」と徐々にブレーキが壊れていき買う方向ににじり寄って行ってた。もうこうなると時間の問題。

気絶して気がついたら買っちゃってたよ。まだちょっとビビってる。本一冊にかけていい値段?でもまぁもう買ったもんはしょうがない。

10万円の双眼鏡が欲しいって言ってる奥さんの背中押しまくったよね。突き落とす勢いで。死ぬ時は一緒だよ。


これでトリミング違いは英語版でコンプリート。あとは出版社違い、国違い、表紙違いなどもあるけどそれはまぁいい。おまけみたいなもん。
圧倒的満足感。

「二度読み返したくなる詩に出会った時のような感覚を味わって欲しい」
ロバート・フランク

詩って一回読んだだけじゃ良くわからないことが多くないですか?少なくとも僕はそう。でも「なんかいいな」くらいで何となく気にかけているうちに、衝撃はなくてもじんわりといつの間にか大事なものになっているあの感じ。
「すげーー!!」みたいなインスタントなものばかりじゃなくていいよ。おじさんは疲れやすいんだから。「よくわからんけどなんか良い」もいいよね。
飴玉を口の中で転がして、ゆっくりと身体に取り込んでいくように。
僕はThe Americansに収録されている写真の順番をいつの間にか覚えてしまっていたので、頭の中でページをめくれる。散歩しながら反芻できる。

何かでチバユウスケが「朝起きたらとりあえずストーンズの『Sticky Fingers』を聞いてる」と言ってた。
何かで岸田繁が「頭の中で鳴らすビートルズが一番音質が良い」と言ってた。
そんなふうに僕も『The Americans』とも付き合っていけたらいいなと思う。

The Americansについて気付いたことなどをこちゃこちゃとまとめてるメモがあるんだけどそれもブログに書いちゃおうか悩み中。